Vol.24:地名文化財(その5)「五」

五(甲骨文字)
五(甲骨文字)

20170531胡

 

▼数詞とは何か。「イツツ」それとも「ゴ」

 モノを数えることは、有史以来繰り返されてきた暮らしの中で使われてきたしぐさでありる。その数える過程を視覚的に記憶させ、また相手側にそれを伝えるため、体の部位、とりわけ指を折ったり、立てたりして表現してきた。この指を使うしぐさだけをとっても全世界でさまざまな方法があるという。このとき、必ずと言っていいほど、言葉に出してきた。これが数詞である。

 一 ひ(ヒトツ)   イチ

 二 ふ(フタツ)   ニイ

 三 み(ミッツ)   サン

 四 よ(ヨッツ)   シ

 五 い(イツツ)   ゴ

 六 む(ムッツ)   ロク

 七 な(ナナツ)   シチ

 八 や(ヤッツ)   ハチ

 九 こ(ココノツ)  キュウ

 十 と(トウ)    ジュウ

 この日本語の数詞の起源は、左側のひ、ふ、みが大和言葉で、その後、漢語のイチ、ニ、サンが移入された。現在では、実際使われるのは漢語ではあるものの、昔からの数え方も受け継がれてきている。漢数詞全盛ではあるが、名残りもある。

 「一人」「二人」「三人」「四人」「五人」。多分、「ひとり」「ふたり」「さんにん」「よにん」「ごにん」と読んだことだろう。どうして、イチニン、ニニンやシニンと読まないのか。習ったわけではないが自然とそう読んできた。タリは人の意味なので、四人はよたり、五人はいつたりと古代は使っていたのが、使われなくなり二人までが残ったということだ。

 

 目の前にあるものを数えるときは指を使わないが、過去の記憶から思い浮かべて数えるときは、自然と指を折るしぐさになるのではないか。その時、あなたは指を折りますか、それとも立てますか。

 

 渡辺正理著『川をなぜカワというか』に日本語の生成原理としての数詞について、白鳥庫吉氏の説を引用しつつ自説を展開している。説明している。日本語の起源」HPを氏は開設しているのでそちらを参照してほしい。

 

 ▽数詞(ヒ・フ・ミ)の起源

 今の日本人は、親指から順に折っていき、全部折ると今度は小指から立てていく。いろいろ考えてみたのだが、古代の数え方は、指を折っていくのではなく、握った指を一本ずつ立てていき、片手を全部開いたあと、閉じていく考えるとうまく解釈できる。左手の指を親指から立てていき、右手の指でさしながら数えるものとする。

 数を数えるのに、もっとも普通に使うのは指であり、多くの民族の数詞が指に関係しているし、日本語でも「指折り数える」という表現がある。日本語の数の数え方も指と関係がある。

1  ヒ (親指)    ヒラク(開く)。親指を起こす。

2  フ (人差し指) フル (振る)。振り替わる。

3  ミ (中指)    ミ(まん中) ※書籍では「ミ(一番背の高い指)」

4  ヨ (薬指)    ヨル(寄る)。端に寄る。

5  イ (小指)    イタル(至る)。

ヒ(1)は、ヒラクとしたが、ヒナ(鄙、辺境)などの語に見られるようにハ(端)と同じ語の可能性がある。 ヒトはヒ(端)を単体を表すのに用いたものであろう。

フ(2)は、フ(振る)である。「振り替え」というように横に移ることがフルである。英語でいえば nextにあたるのが、この「フ」である。このフの用法については、『大和言葉の作り方』のハ行の説明、もしくは『語源でとく古代大和』(p52-55)を参照願いたい。

ミ(3)は、ミカド(御門)、ミヤ(御屋=宮)などのミ(御)と同じ語。これは真中、真上のマと起源的に同じと考えられ、真中の指の意。

ヨ(4)は、寄る。5のところに近付く。

イ(5)は、イタル(至る)としたが、このイは、イヅ(出)・イル(入)のように、区切りとなる地点を表す。物体を表すイと同じ。

 

▼五は、全てを表す数?

 

 指が五本あることから、「五本の指に入る」と表現して、基本的には優れている人やモノを掲げ、いわばその世界のすべてであるように示される。五方、五行、五体、五臓、五感、五穀、五大陸、五街道、五摂家などなど。

 また、五月(さつき)、五月雨(さみだれ)、五月蠅(さばえ/うるさい)のように「五」を「サ」と発音するのはどうしてか。

 折口信夫は「サクラ」について、山の神は春に田の神となって田に降りてくる。その途中に桜の木に宿って花を咲かせる。「サ」は稲の神で「クラ」はその神が座る神座(かみくら)と述べている。サナエ(早苗)は稲の苗で、サミダレ(五月雨)は五月の稲の成長を進める雨、サバエ(五月蠅)はウンカなど稲にたかる虫、群がり騒ぐ蠅、うるさいとも云う。

 

▼四万十町内の数詞地名

 ▽一(イチ)

数詞の一として使われる場合が多いが、市の字が当てられる場合もある。ときに巫女に関係した「佾」「イツ」「イチ」「市」が「一」に転訛した場合もあるので注意が必要だ。 →地名のお話サイトVol5 イチ地名の謎

・一ノ瀬(イチノセ/十和川口)

・一ノ谷(イチノタニ/市ノ又・古城)

・一ノ又(イチノマタ/野々川・古城・井﨑):井﨑の場合は、一ノ又・二ノ又・三ノ又と相後川の下流から順にある。

・一町切レ(イッチョウギレ/口神ノ川・中神ノ川)

・一町田(イッチョウデン/作屋)

・一貫田(イッカンデン/宮内)

・一本木(イッポンギ/野々川・大井川)

・一本松(イッポンマツ/打井川・西ノ川)

 ▽二(ニイ・弐・フタ・仁)

・二タ又(フタマタ/日野地)

・二タ子松山(フタゴマツヤマ/大正中津川)

・弐津岩(ニヅイワ/仕出原)

・仁ノ畝(ニボウネ/大正中津川)

・二本棒口(ニホンボウグチ/市生原)

・二本松(ニホンマツ/川ノ内)

・二ノ又(ニノマタ/井﨑)

・二タ又(フタマタ/地吉・弘瀬・井﨑)

 ▽三(サン・ミ)

御んの敬称が数詞の三に転訛する場合がある。

・三日月山(ミカヅキヤマ/金上野)

・三崎山(ミサキヤマ/興津):半島のような突出したサキの部分をいう先にミの敬称。御先の転訛。八咫烏をミサキ

・三崎(ミサキ/藤ノ川)

・三島(ミシマ/昭和・床鍋(三島野丸)・宮内(三島ノ元))

・三滝山(ミタキヤマ/七里(小野川))

・三井尻(ミツイジリ/古城)

・三月田(ミツキタ/東北ノ川・作屋・奥呉地)

・三ツ串(ミツクシ/大井川)

・三ツ畑(ミツハタ/小向)

・三ツ森(ミツモリ/道徳)

・三船田(ミフネタ/平串)

・古城三ノ丸(コジョウサンノマル/大正北ノ川)

・サイノヲ三ヶ所(サイノウサンカショ/家地川)

・三目節(サメブシ/地吉)

・三条谷(サンジョウダニ/十川)

・三升マキ(サンジョウマキ/家地川・打井川)

・三代地(サンダイチ/数神)

・三反切(サンダンキレ/窪川中津川・大正北ノ川)

・三ノ谷(サンノタニ/七里(本在家))

・三歩市(サンポイチ/与津地)

・三本杉(サンボンスギ/七里(越行))

・三本松(サンボンマツ/金上野)

 ▽四(シ・ヨ・ヨツ)

・四時田(ヨジデン/宮内)

・四ツ辻(ヨツツジ/大井野・上秋丸(四ツ辻ノ本))

・ヨツ谷(ヨツタニ/志和)

・ヨデン(ヨデン/仕出原)

・四角田(シカクタ/平串)

・四久堀(シキュウホリ/十川)

・四手崎山(シデサキヤマ/昭和)

・四手ノ川山(シデノカワヤマ/下岡)

・シデノキ山(シデノキヤマ/上岡)

 ▽五(ゴ・サ)

・五反地(ゴタンジ/神ノ西・若井川・金上野・根々崎)

・五反切(ゴタンギレ/根元原・東川角・影野)

・五反畑(ゴタンバタ/宮内)

・五代田(ゴシロデン/弘見)

・五代地(ゴシロチ/米奥)

・五在所山(ゴザイショヤマ/金上野)

・五社料(ゴシャリョウ/作屋)

・五味(ゴミ/地吉):コミは高知県の山間部の川沿いに多く、水流のよく突き出た屈曲部の称で水流の入り込む意味のコムという動詞の名詞化(民俗地名語彙辞典)。コミタ、古味原、古味野々、コミヤマなど四万十町内に見られる。

・五味ノ平(ゴミノヘイ/日野地)

・五輪ヶ平(ゴリンガヒラ/宮内)

・五月田(サツキデン/宮内)