Vol.17 大川の渡し 「舟」地名

穿入蛇行(せんにゅうだこう)する四万十川。四万十町の十和地域(浦越~昭和)
穿入蛇行(せんにゅうだこう)する四万十川。四万十町の十和地域(浦越~昭和)

20161115胡

 

 

■船戸 行路の安全を守る岐神

  高知県下の船戸の地名は、かつて行路の安全を守る道の神、岐神(ふなと)が祭られていたことであろうと述べ県内の船戸地名を次のように拾っている(土佐民俗選集Ⅱ「土佐地名覚え書き」p259)

  • 室戸市佐喜浜町根丸字船戸
  • 室戸市元字船戸
  • 室戸市吉良川町船戸
  • 香美市香北町太郎丸字船戸ノ森
  • 長岡郡大豊町船戸
  • 土佐郡大川村船戸
  • 土佐市北原字船戸
  • 吾川郡仁淀川町吾川船戸
  • 高岡郡津野町船戸
  • 高岡郡中土佐町大野見大奈路字古船戸など

 「舟戸」地名は、高知市、四万十市にある。

 

 岐神は片足神であるということから草履の片足を奉納し、結願で残り一方を奉納するという神社もある(土佐民俗選集Ⅱ)。

 

 川は水運の要であるとともにあちらとこちらを遮るモノでもあった。その遮断性を克服するのが、山は「峠」であり、川は「渡し」である。この「渡し」を地名に刻んだひとつが「船戸」である。船戸に関連した四万十町内の地名分布は、次のとおりである。

 

 

▽四万十川(上流域から順)

  • 船付ノ上(上秋丸:左岸) 字名
  • 入船ヤシキ(市生原:左岸) 字名
  • 渡場(東川角:左岸) 字名
  • 渡上リ(東川角:右岸) 字名
  • 渡リ上リ(西川角:右岸) 字名
  • 船附(根元原/せんふ:仁井田川右岸) 字名
  • 渡リ上リ(根元原:仁井田川右岸) 字名
  • 渡リ上リ(宮内:右岸) 字名
  • 渡リ上リ(仕出原:右岸) 字名
  • 船戸(西原:左岸) 字名
  • 船戸(大井野:右岸) 字名
  • 船戸(若井:左岸) 字名
  • 船戸(大向:右岸) 字名
  • 船戸場(大向:右岸) 字名
  • ワタリアカリ(寺野:井細川) 「長宗我部地検帳p413」
  • ワタリアカリ(南川口/ウリウ野之村) 「同上p422」
  • 船戸山(広瀬:) 字名
  • 龍奔渡し(広瀬:左岸) 「掻き暑めの記・下p321)」
  • 下船戸(上宮:左岸) 字名
  • 船渡ノ越(大正北ノ川:右岸/ふなとのこし)
  • 舟戸(上岡:) 字名
  • 船田(上岡:) 字名
  • 舟田(大正:) 字名
  • 船戸(昭和:右岸) 字名
  • 船渡ノ上リ(昭和:) 字名
  • 船戸(十川:) 字名
  • 船ノサコ(十川:) 字名
  • 船ノ川(十和川口:) 字名 

▽梼原川(上流域から順)

  • 舟ノ瀬(下津井) 字名
  • 舟戸渡場(大正大奈路:左岸) 字名
  • 船戸ノ越(西ノ川:右岸) 字名
  • 上ミフナト(江師:) 字名
  • 下フナト(江師:) 字名 

▽その他の地域

  • 船場(黒石) 字名
  • 船戸ヶ内(与津地) 字名
  • 船頭(志和) 字名
  • 内船倉(興津) 字名

 

■長宗我部地検帳にみる「筏」 
 長宗我部地検帳には多くの職業地名がみうけられ、そのひとつが筏師である。筏師の扣地、作地として浦越と大井川にみられる。
 番匠も広くは船大工も含まれるのではないかと考える。上山郷下分と上分を結ぶ往来の要が江師(旧大正であり江師のホノギ「舟戸」に番匠弥介給とあり、番匠平太の給地もある。番匠は大工の古名であるが、16世紀に入ると戦国大名が有力な棟梁を領国の大工(国大工・郡大工)に任じて領内の番匠を統率させるようになるというが、戦略上も舟渡し場の確保と舟の建造は重要事項であり、船大工まで職業集団として囲い込みとして給地をあてがったのではなかろうか。この江師地区には「筏戸」「舟戸」「舟戸ハサタ」の船渡関連のホノギがある。
 筏師、番匠の記述のあるホノギは次のとおりである。
筏師・番匠
番匠弥介給(広瀬村ヲウトウキ・弘瀬)
番匠屋しき(宇津井川村・打井川)
番匠平太給(西川村本郷・西ノ川)
番匠弥介給(江師村舟戸・江師)
番匠平太給(江師村スヤサキ・江師)
筏乗勝衛門扣(平串村田ノウ子・浦越)
筏藤介作(大井川村一本木・大井川)
番匠弥介給(大井川村サルウチ・大井川)
番匠彦七給(地吉村ヒキセウ・地吉)
番匠彦七給(地吉村ひかし浦・地吉)

 


フォトギャラリー