■中津川の由来
地名の父、吉田東吾著の「大日本地名辞典」には、「中津川」地名が全国各地に22箇所みられる。その多くは山奥深い谷川であり、奥山の村落である。ナカの音のごとく幾つかの集落の中を意味するところが見うけられる。
「民俗地名語彙辞典(松永美吉著)」では中津川について『山奥の在所の地として折々きく。その最も奥まったのは秩父の中津川である。』と説明し、ツについては『土地の便、不便。交通の良否を「ツが良い」と岡山、山口、秩父などにある。このように「交通位置」のツから、船着き場や港の意となった。』とある。
「地名用語語源辞典(楠原佑介・溝手理太郎編)」ではナについて『①場所を示す接尾語。「土地」をいう古語のナ。②接頭語もあるか。』とし、ツについては『①港。渡し場。ト(門)と同系か。②泉などの水のある所、また単に海岸をいうか。③近世に①の意から転じて「人の集まったところ」特に大都市をいう。④場所を示す接尾語。ト(処)と同系か』と述べている。中津については『①ナカ(中)・ツ(津)で「中心となる港湾の所在地」②ナカ(中)・ツ(場所を示す接尾語)で、中心となる地。』とある。
また「地名語源辞典(山中襄太著)」ではナカについて『親村から子村が四方へ分れ出た場合に、その中央にある親村を中村、本村、元村、本郷、元郷などと呼び、また単に中、元、本、茂登などとも呼ぶ。』と述べている。
大正中津川の場合、村落の中心地として「本村」が栄え、上流には小高い所の新たな開墾地として「森が内(盛り河内・カイチ。渓間の小平地)」ができて子村となり、下流に「成川(緩傾斜がナルで、なそーなった所の川)」が次に開拓され、三集落に流れる郷村の名を「中津川(中津に流れる川)」としたのではないか。
山の暮らしは、長い歳月で山を培う開拓者であるとともに、山を畑としてその実りを頂戴し加工して山道を縫って売り歩く1年サイクルの総合商社員であり、山の中で必要なものを自らがやりとげる技を磨き合う職人集団でなりたっている。
中津川は、山が育んだ地名である。
※写真は、大正中津川の国有林小松尾林道からの「トワイライト中津川」