かわら居士の川柳集①
木魚
脱原発元年
2012年4月
数珠玉を掌で揉みほごし
物言わぬ仏の骨がモノを言い
サレコーベ 和尚の叩く木魚かな
四十九夜 ホトケもそっと杯をだし
叩かれて 蚊を吐きだす木魚かな
数珠玉を揉みほごしおり 秋の蠅
欲深き神の馬穴の底がぬけ
原発の灯を点して墓を掘り
悪餓鬼の火あそびすぎて炉をこがし
放射線 キノコの形でつらをだし
酒を浴びて 除染するかやお釈迦さま
汚染して頭垂るるも稲穂かな
原発の村に閉じたる菩薩かな
方舟や 泥の舟にも人をのせ
原発もカチカチ山と燃えさかり
蜘蛛の糸 釈迦は切らずと人が切り
猫の尾の なにやら呪文となえおり
天の邪鬼テープの前の石となり
腕を組み 足三本の五徳かな
われひとり五徳の上に秋の蠅
神妙に悟りひらくや 冬の蠅
血を吸いし 茱萸をはこぶや蚊の哀れ
蚊柱の 経をあげたり交んだり
いななきし 闇を切りとる黒い馬
ボーフラも浮かれ木魚に浮き沈み
ボーフラの への字くの字の痒みかな
蚊柱や ベリーダンスも踊りけり
てんびんの芯をわたりて金魚売り
夏の炉の脚もとさみし五徳かな
電線にツバメかなでる音符あり
庭先の西瓜のタネと句読点
軒下に鳥のついばむ 句読点
句読点なっとう糸がからみおり
ポケットにモノ忘れして国滅び
この国に粛々法師の蝉が鳴き
値上げする煙の環にも角がたち
赤提灯 聖徳太子が唾を呑み
そもそもの木の葉狐に騙されて
鬼火の提灯ゆれし ドジョウ狩り
竹トンボ 掌が拝みよる
座敷ぼこ 対角線をひた走る
いも虫の青みどろを足で踏み
一升瓶 すがめ眺めつマムシ酒
火を吹きて トグロ巻きたる仏かな
つまずきし無縁仏に蝶が舞い
野垂れして 人の形に花の咲き
散骨のちりぬるわが身 眺めおり
この夏の横着ヘチマ横になり
シャクトリの 花の咲かない小枝かな
クツワムシ 破れかぶれの声かなし
管楽器 抱きて眠る蛹かな
チョコ色にとろりととけて地蜘おり
石塀にエナメル置きて蜥蜴去り
巻尺で獲物狩るかよ カメレオン
草むらに長虫こがねのドグロ巻き
結末は蛇がオノレを呑んでとけ
若あゆの 苔をけずりし刃物かな
竿陰をながれ過ぎにし世の眺め
品格のひとり相撲に行司こけ
草原に土俵いらずと青き龍
青き龍 飛龍となりて去りにけり
後になり先になりして影へんろ
斑猫の小手翳しおり遍路道
逃げ水や 浮き橋わたる遍路かな
夏影に わが身踏まれし遍路かな
影のびて われ宿ありや旅遍路
彼岸花 燃えつきてなお遍路道
骨杖に鬼火まとわりて遍路ゆき
メビュウスの 死の国巡ぐる遍路かな
地を割きてあかい血を吐く 彼岸花
黒髪や下弦の月を手にかざし
野辺送り弔い旗の顔を祇め
沈下橋 逆さにゆくや野辺送り
沈下橋 あかい着物の水鏡
鬼女ありておん身雪ぐや 沈下橋
妖艶なうしろ姿の 沈下橋
ホタル来て 写経するかや水鏡
亡き門に梵字なぞりて ホタル舞い
うつし身を写して迷う火垂かな
源平の谷にこぼるる 火垂れかな
ホタル来て 芳一おるかと耳に問い
夜もすがら 耳に灯りし蛍かな
琵琶法師 びわの形で琵琶を弾き
言魂に死霊とり憑く 浮き世かな
カワガラス 浮き世の水に浮き沈み
香あげて 白き骨おく蚊遣かな
白骨を巻いて香焚く 蚊遣かな
渦巻きし 骨を弔う蚊遣かな
重力も骨の形にこしを曲げ
指折りて むすびひらくや二度わらし
いやはやも 羽織袴で人となり
恥じらいを透かしてほてる 耳提灯
またしても ハンメルンの笛を吹き
錦鯉 水におよぎし絵筆かな
青い空 鯉の姿に風およぎ
揉み手して飯を欲しがる 五月蠅
ミズスマシ ののじののじの日和かな
のどけさや 煙管くわえて田螺おり
尾の切れたオタマジャクシの腹おどり
カメムシの甕に詰まった匂いかな
泥水に鰓をすすぎし鯰かな
交わりて 蛇のよじれし〆縄か
かなかなと蝉のまじわる句会かな
捕虫網 かおに冷たき蝉しぐれ
油ゼミうなじに汗の滲みおり
垂直に午睡むさぼる やんまかな
斬りむすび 花に落ちるや蝶吹雪
道行きの 月も小枝に腰をかけ
まなじりに桜の花の 吹きだまり
花冷えや 小用すみたる身のふるえ
谷川の写りし月を獣噛み
影踏みの わが身いずこや朧月
影法師 おぼろ月夜をさ迷いて
凡骨の猟師となりて 言葉狩る
耳尖げし 闇夜の空に鵺の啼
影ふみの 影ふむ足を影踏みて
あるじなき軒の風鈴 雪しぐれ
とろとろと思念するかや 冬の蠅
三脚に環をあげて待つ五徳かな
ご破算にねがいましたる 資本主義
西風は肌にあわずと 渋団扇
沖縄の鏡のごとき 照りかえし
静止して二律背反 独楽のたち
箱男 円い地球を踵でけり
眺むれば言葉はこぶや のど仏
百舌去りて はやにえさみし冬の空
寒空にオトギの国の鵺の啼き
孤をひいてわが身捨てるや 冬の星
だまし絵に騙されてなお 草なびき
片足を差してこの世の景色かな
ギンナンの あやしきものの匂いかな
馬の穴 眺むるほどにモノの落ち
風上でしてはならぬと鼻が言い
つんつるてん 下弦の月を頭にさし
垂れごろも脱皮そこねの子等のゆく
風呂敷の唐草もようが 児をさらい
モノ忘れ 腰のあたりのつむじ風
年輪の等圧線に指で触れ
鎮座する いれ歯に骨の箸を置き
正月を迎えし蠅の 灰神楽
めでたさも 灰神楽して冬の蠅
ちんちろりん 春をよびこむ溲瓶かな
そもそもの 墓にはみでる骸かな
夜のふけて除夜の声きく 終の蠅