地域資料叢書シリーズの第5弾。
今年度終盤は、新型コロナウィルスの影響等もありまとめに時間がかかりました。
巻頭言等も省略した簡便なものとなっていますが、多くの方々が執筆していただきにぎやかな内容となっています。
■『地域資料叢書23 続四万十の地名を歩くー高知県西部地名民俗調査報告書Ⅲ、津野庄・幡多庄故地現地調査報告Ⅱー』
この報告書は、ハウジングアンドコミュニティ財団の2021 年度住まいとコミュニティづくり活動助成の支援により奥四万十山の暮らし調査団が「高知県における屋号と集落の民衆知の記録―フィールドデータベースによる地域資源の可視化―」をテーマとして1年間活動した成果の一部を製本したものです。
活動の成果品である報告書は、オーテピア高知図書館、四万十市図書館、四万十町図書館等の関係する公立図書館には納本する予定です。(2022年4月末予定)
「序言」で書いたように、地域では「生きた地名」は消失の危機にあります。農村では圃場整備で大幅に景観が変わり、小地名の聞き取り記録が難しくなっています。比較的景観変化がゆるやかだった山村では過疎高齢化が進み、集落が消滅することによって地名や生活誌の消失が危ぶまれるようになりました。
高知県四万十町の住民団体「奥四万十山の暮らし調査団」は、こうした記録や記憶を地名や民俗の伝承者である住民自身が集落の古老に聞き取り、地域で共有化をしていく取り組みを進めるています。
この「地名」を通して歴史史料を空間的に捉え、史料に書かれた現地を歩き、古老から話をうかがう。
この民俗学的な手法で一つひとつを紡ぎ編んで行くと、今まで見えてこなかった山村風景が復元され、新たなものづくりの端緒にもなります。
こうした地名を使った高知県下の歴史愛好者による地道な現地調査(フィールドワーク)を発表する場として4章にわけて活動報告をまとめた叢書となっています。
序言 (楠瀬慶太)
地域の地名や民俗の伝承者である住民自身が、そこにある小さな「生きた地名」を掘り起こし、地域の暮らしに根差した「民衆知」として気づき、「地域の資源」に昇華させる活動を、一つひとつ積み重ねていくこと。
「奥四万十山の暮らし調査団」の事務局長が、そんな思いを込めて序言を記している。
第1章「四万十の地名を歩く」(楠瀬慶太・武内文治)
第1章では、四万十川中流域の四万十町の集落調査の成果4本を掲載。ここでは、江戸時代の村にあたる大字ごとに地域史を描く手法を用いている。調査手法は、古老への聞き取り調査と文献史料の分析を組み合わせて、歴史地名の現地比定・記録を行うとともに、ミクロな地誌を描いている。
志和―漁村屋号の成立と展開―(楠瀬慶太)
芳川―山に生きる暮らし―(武内文治)
木屋ケ内―梼原川の川津―(楠瀬慶太)
四手崎―羽右衛門が拓いた近世集落―(楠瀬慶太)
第2章「四万十の地名を探る」(山﨑眞弓・田中孝子)
第2章は、山﨑眞弓さんは、昭和6~8 年に旧大正町芳川で行われた大規模な材木搬出の「天理教本部昭和改修献木」に従事した小野川利國氏の手記をもとに当時の山の暮らしを紹介するとともに、天理教高知大教会への取材によるルポルタージュ。田中孝子さんは、高知県西部のタタリ信仰の調査記録をもとに、四万十の山の暮らし、祭礼に代表される信仰の実態を明らかにしている。
小野川利國氏の手記―旧大正町「昭和天理教大改修献木」にかかる新資料―(山﨑眞弓)
四万十川流域のタタリ神信仰(田中孝子)
第3章「四万十の地域資源地図」(森下嘉晴)
第3章では、「地域資源地図」2枚(田野々と志和)を紹介する内容。
奥四万十山の暮らし調査団では、地域調査の成果を視覚的で分かりやすく一般の方に知ってもらうため、報告書や論文などの学術的出版物に加えて地図の形で公表している。地図には、調査で判明した地域の歴史や文化の情報を記し、町歩きや地域づくりに活用してもらうことを念頭に置いて「地域資源地図」という形でまとめている。
森下嘉晴さんは、四国森林管理局の森林官であり高知県展・洋画部門の特選作家でもある。その「足の力」と「聞く力」と「描く力」は類い稀な才能として「絵地図」に開花する。
この絵地図は四万十町商工会、四万十川財団、高知県森と緑の会などでも紹介され活用されているが、当HP「四万十町地名辞典」(奥四万十山の暮らし調査団編集)では、その絵地図コレクションの全てをPDF 公開している。
大正百周年田野々物語(森下嘉晴)
志和今昔(森下嘉晴)
第4章「幡多地域の歴史と民俗」(山﨑徹・岡林悠太・神田修)
第4章は、中近世の幡多に関する文献史学の論考2本と、幡多地域を含む民俗学の論考1本を掲載。
山﨑徹さんは戦国期における加久見氏の港について考察。岡林悠太さんは江戸初期の愛媛と高知の藩境の実態についてまとめ、神田修さんは土佐のドウロクジン神信仰についてその背景を考察している。
戦国期加久見氏の勢力下における港の特色―三崎を中心に―(山﨑徹)
江戸初期における宇土藩境争論の歴史的意義(岡林悠太)
土佐のドウロクジンから(神田修)